一般社団法人 書燈社

横浜詩人会の詩

【その2】                          2016年06月26日
  「おじさんノオト」     倉田武彦


 倉田氏の詩は、自然の情景であったり自然の描写があって、静かに坦々と書きつづられていきます。そして最後の一小節、一行でさらりとかわされ、恥じらいを見せたり、現実を離れて自分の世界を覗くように客観視する形を保っています。「あとがき」を読んで俳句をなさっていたことを知り、なるほどと納得いたしました。書作品にする場合を考えてもう一度読みました。

 @ ゆれる

 A 音の交信

の中の部分は大きな作品になると思いました。



  「風がさそう時」      倉田武彦


 装丁がさわやかで、標題の「風がさそう時」は、本屋さんの店先で女の子が手に取りそうですが、内容は、”いのち”。静の世界への入り口を想像させます。重々しくなく素直な詩集です。詩集全体がそのまま書の作品になるきらりと光る言葉のあつまりです。倉田さんが年輪を重ねて来られた大きな宇宙の一点を身近に置いて細密画として捉え、部分部分を見ていく。そして読者は時間の動きを楽しむ詩集です。




【その1】                          2013年07月04日

  「灼熱のリオデジャネイロ」   細野 豊


贅肉のない締まった肉体の一群の

リズミカルに振られる腰

少し突き出された尻が

くりくりまわる


男たちの目が吸いつき

サンバのリズムに乗って

いっしょにくらくら

まわりはじめる


灼熱の二月の汗を

したたらせながら

ああ たまらねえ

男たちの腰が前後に揺れはじめる


黒や黒と白の混血の

肉体の躍動

いろいろな汗が入り混じって

ここリオデジャネイロのカーニバルに


黒いオルフェを狙う暗殺者を

闇の底に沈めて

命のリズムが高まってゆく


ああ がまんできねえ


そのときひとつの歌が

ギターの伴奏とともに聞こえてくる


「哀しみのないサンバなんて

 酔えない酒と同じ


 そんなサンバは心に響かない


 哀しみのサンバなんて

 ただの美しいだけの女のようなもの」     *


そして昂りが徐々に治まってゆき

喧騒も消えて 夜の静寂の中

路面電車の走る音だけが

街路の石畳に響いている



  * 「 」内は、ブラジルの詩人・作詞家、ビニシウス・デ・モラエスの作詞によるギター    の弾き語りの一節。映画「男と女」(1966年カンヌ映画祭グランプリ)の中で使わ     れた。





細野 豊 「女乗りの自転車と黒い診察鞄」を読んで


 生きることがもっと真剣な事柄であった頃、現実の世界と幻想の世界など二つ、三つの世界を行ったり来たりしながら、生を全身で受けて生きた男の詩は、重くずしりと胸に響きました。細野氏の魂の言葉に詩人の真の姿を見ました。女の眼ではない世界です。

 本は三つの部分に分かれ、第一部は、詩人と母との関わりの物語として、「ぼく」と「おれ」が移り変わりながら成長する一人の男の生と受け止めました。「母の赤いほっぺた」、「盂蘭盆」

 詩とは何か、よくわからないまま読んでいます。第三部の中から書作品になるものとして、「灼熱のリオデジャネイロ」、「出来ることなら象のように」を見つけました。

 以上、四つの作品に特に感動しました。

事務局長   橘 和代  


詩   集
No
  表         題
 詩 人
 価 格
ゆめうつつ 大石則子 1,500円
あけぼの 奥野盛雄 2,200円
蝉時雨 加瀬 昭 2,400円,
ジオラマ Diorama 禿 慶子 2,000円
釣人知らず 川端 進 2,500円
曙光 田村雅之 2,500円
時の集う街 日野 零 1,900円
かたみの音 藤森重紀 2,000円
女乗りの自転車と黒い診療鞄 細野 豊 2,500円
10
クジラの耳かき 水野るり子 1,500円
11
三年微笑 山本聖子 2,000円


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